第86話 パントマイム 
意味不明な体験談ですが。

ワタシがまだ保育園に行ってなかった時の話です。
というかそのころすごい保育園とか行きたくなくて行ってなかった時期のものです。
その頃のワタシは社交性というか好奇心がおおせいだったので知らない大人と話したりするのがすごく好きでした。
その日の朝、母が「上の階に新婚さん引っ越してきたらしいよ」みたいなことを言っていたので何となくワタシは最上階のその部屋へと行きました。(当時はアパート暮らしでした。)
何のためらいもなくチャイムを鳴らすと若い女の人が出てきたので「遊びにきました」と言うと笑顔で中に招いてくれました。
部屋のなかには若い男の人とかごに入れられたシーズーみたいな犬がいて可愛い家具があり、あとはよくわからないしきりのような柵のようなものがたくさん置いてありました。
「なんだろうな〜」とみていると突然おにいさんがしきりの方に歩いていき
「今からおにいさん消えるよー」
と言って階段を下りるパントマイムを始めました。
ワタシは何となくタネがわかったのでつまらなかったのですが、反応しないとこの人可哀想だよな〜と思ったので愛想笑いをしながら
「わーーー!すごおい!」
とか言っていて、おにいさんは気分がよくなったのかそのパントマイムをまたやろうとしました。
おねえさんはワタシの横でずっと微笑んでいたのですが、いきなり立ち上がるとおにいさんのとなりのしきりの方に向かいました。
そしておにいさんが
「今度はみんな消えちゃうよー」
と言って階段を下りるパントマイムを始めました。
今度はさっきと違って二人が降りるごとに石の階段のような音がします。
二人の頭がみえなくなりはじめた時におねえさんの響き渡るような
「一緒においでよ〜〜!!」
という声が聞こえたので「なんだろう」としきりの裏側に走っていったのですが二人ともいません。
ただそのしきりの下辺りから小さく石の階段を下りていくような音が聞こえるだけでした。
どこかに隠れてるのかと思い部屋をみると、しきり以外のものがすべてなくなっていました。
犬もかごも家具もありませんでした。

そしてワタシにはその後の一週間くらいの記憶が全くありません。
気がつくと自分の家(部屋?)の中でキッチンの床に座っていました。
横で母が昼ごはんを作っていたので
「あの引っ越してきた人は?」
と聞くと、「確かすぐに引っ越したかなんかしたらしいけど、知らなかった?」と言われました。

結局なんだったのかわかりません。
その次の日からよくわかんないけど、ちゃんと保育園に通うようになりました。

 あの部屋はいったい何だったのでしょうか。