第3話 防空頭巾の少女 黒介 22才 男性 神奈川県 | ||
その日、私は部屋の模様替えに夢中でした。 机を壁際に変えベットを扉の方に向けたり。気が付くともう日付が変わっていたので、寝ることに。 眠りは直ぐに訪れ、姉の部屋の灯りがガラス扉から漏れるのも気になりません。 周囲は真っ暗で私は宙に浮いた感覚。 不思議に感じながらも、私は動けません。 少しすると凄まじい風景が広がりました。 一面が火の海。燃え上がる家、空から降り注ぐ火の玉、赤々と照らされた夜空。逃げ惑う人達。 その中に小さな女の子が走っているのが見えました。 防空頭巾を被ったモンペ姿の子供。母親がその子の手を引き逃げまとっている。 空から落とされる、火の玉にも似た物は人々の群れにも落ちてきます。 あの子供が転び泣き叫びました。母親は子供を抱きかかえましたが、背中に火が燃え移ました。 あっという間に二人は燃えました。まるで、新聞紙が燃えるように・・・。 反射的に目が覚め、安心した。夢なんだと知ったから。 良い気持ちはしませんでしたが、寝なおそうと寝返りを打ったその時、 足の先から冷水を浴びたように冷たい感覚が襲いました。 そして体中を蟲が這う様なむず痒さ。 直後に金縛り。 身体が動かない。 「ねえ、起きて」 何処からか、声が聞こえ(寝返りで左半身が上になった状態)肩に重みを覚えました。 恐くなりぎゅっと目を閉じました。 しかし部屋の風景がありありと見えます。 しかも何故か、部屋全体が見えるのです、姉の部屋の明かりや見えるはずの無い私の後ろ側が・・・。 「起きてよ」 グイッと強く肩を押されました。 押していたのは、夢の中で燃えたはずの女の子。 物音一つしない部屋の中防空頭巾を被った女の子が私に囁きます。 見たくなくても見えてしまう顔。 それは、頭巾を被った所為で影が出来たのか、頬から上は真っ暗でした。 確認できたのは子供らしくふっくらした頬、小さな鼻、プクリとした唇。 その唇が動きます。 「起きて」 私の肩にかけた両手を強く下に押します。 それは、起こすと云うよりは、ベットに沈める様な動き。 必死になって身体の一部を動かそうと、お腹に力を入れた瞬間、金縛りは解けました。 日付は、8月15日。日本の終戦の日でした。 後日、祖母に部屋のことで注意されました。 「北枕で寝てはいけません」 死者を寝かす時に北枕は使われます。 |